給料の未払いで生活できない!損せずに解決するための5つの基礎知識

    給料(賃金)の未払いは、場合によっては生活そのものが脅かされる緊急事態です。

    労働者としては、速やかに、そしてなるべく損をせずに、トラブルを解決に持っていかなければなりません。

    賃金支払いにはどのようなルールがあるか、請求するためには何が必要か……。

    スムーズに解決するためにも、賃金未払いについての基礎知識を押さえておきましょう。

    未払い賃金解決の基礎知識(1)会社には賃金を支払う義務がある

    労働基準法では、会社が労働者に対して、基本給をはじめとする賃金を支払う際のルールが定められていますので、まずその点について説明いたします。

    (1)会社が支払うべき「賃金」の種類

    労働基準法では、「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」を総称して「賃金」と呼んでいます(11条)。

    具体的な賃金の種類としては、以下のようなものがあります。

    • 基本給
    • 残業代(休日手当・深夜手当を含む)
    • ボーナス
    • 退職金
    • 休業手当
    • 年次有給休暇取得時の賃金

    この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対象として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

    (2)会社が守るべき賃金支払いの4つの原則

    会社が賃金を支払う際には、守るべき4つの基本的な原則があります。

    1項本文 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
    2項本文 賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。

    引用:労働基準法第24条

    1. 通貨払いの原則
    その趣旨は、安全・便利な方法で賃金を受領させることを保障することにあります。現物支給などによって代えることはできません。

    2. 直接払いの原則
    その趣旨は、中間搾取の防止にあります。

    3. 全額払いの原則
    その趣旨は、労働者の経済生活の安定にあります。分割払いなどによることはできません。

    4. 毎月1回以上定期払いの原則
    その趣旨は、これも労働者の経済生活の安定にあります。複数月の分をまとめて支払うことはできません。これは年俸制の場合も同様です。

    支払い遅れ等、これらのルールに違反した使用者には罰則が課される可能性があります(労働基準法120条1号)。

    未払い賃金解決の基礎知識(2)未払い給料の請求には未払いの実態を示す証拠集めが重要

    未払い賃金のトラブルを解決する方法には、大きく分けて「会社への直接交渉」「労働基準監督署への申告」「法的手続き(労働審判や裁判等)」の3種類があります。

    どの方法をとるにしても、未払い賃金の支払いを受けるためには、賃金の未払いという事実を証明できる証拠を取りそろえることが必要となります。

    賃金の未払いを証明するために必要な証拠とは、「労働条件に関する証拠」「労働時間の実態に関する証拠」「支払い賃金の実態に関する証拠」ということになります。

    具体的には、以下のような証拠が有用といえます。

    • 雇用契約書や就業規則(労働条件に関する証拠)
    • タイムカードやPC使用時間等の客観的な記録(労働時間の実態に関する証拠)客観的な記録が難しい場合は、業務指示書やメール、研修資料や日報、オフィスビルへの入退館記録等も証拠として認められる可能性があります。
    • 給与明細書(支払賃金の実態に関する証拠)

    なお、退職後に証拠を収集するのは難しいため、集めておく証拠の種類や量について不安がある場合は、在職中に弁護士に相談することをおすすめします。

    未払い賃金解決の基礎知識(3)未払い給料の請求には時効がある

    未払い給料を請求する場合には、賃金請求権の消滅時効期間についての注意が必要です。

    従来、賃金請求権の消滅時効期間は、当該賃金の支払期日から「2年」でしたが、2020年4月1日の改正労働基準法施行により「5年」に延長されました(労働基準法115条)。

    ただし、経過措置として、当面は「3年」が適用されています(同法143条3項)。
    そして、改正法施行後は「2年」と「3年」の2種類の時効期間が存在することになっています。
    どちらが該当するかは、支払い期日の到来日が改正法施行日以前か以後かによって分かれます。

    具体的には、2020年4月1日より前に支払期日(給料日)が到来した賃金請求権については2年、2020年4月1日以降に支払期日が到来する賃金請求権については3年が請求できる期間となります。
    ※最新の情報にご注意ください。

    弁護士に相談や依頼すると、消滅時効期間の確認や、消滅時効期間の更新・完成猶予といった時効の完成を阻止するための法的手続きを行ってもらうことができます。

    未払い賃金解決の基礎知識(4)退職後でも未払い賃金の請求は可能

    未払い給料がある場合には、その会社を退職したとしても、未払い分に関する賃金請求権を使用者に対して有することは変わりません。

    したがって、退職後であっても、未払い給料がある場合には請求することが可能です。

    ただし、以下のポイントには注意しましょう。詳しくはこの記事の基礎知識(2)(3)をご参照ください。

    • 在職中に未払いの実態を示す証拠集めをしておくこと
    • 未払い給料の請求には、時効があること

    未払い給料解決の基礎知識(5)会社の倒産時には「未払賃金立替払制度」の利用を

    「未払賃金立替払制度」とは、企業倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、未払賃金の一部を立替払する制度です。

    「未払賃金立替払制度」を利用すると、最大で未払賃金の8割を国に立替払いしてもらえる可能性があります。限度額は、退職時点の年齢によって異なります。
    立替払いの請求ができるのは、会社の倒産から2年以内となっています。

    立替払を受けるためには、一定の要件をみたす必要があります。

    未払賃金立替払制度に関して詳しくはこちらをご覧ください。

    参考:未払賃金立替払制度の概要と実績|厚生労働省

    未払い賃金の請求方法と、弁護士への相談・依頼をおすすめする理由

    賃金の未払いへの対処法としては、大きく分けて以下の3つがあります。

    • 会社に直接申し入れる
    • 労働基準監督署に相談・申告する
    • 法的手続きをとる(労働審判、支払督促、訴訟、民事調停)

    ただし、労働基準監督署への相談・申告については、制度の改善に向けた効果は期待できるものの、個々のトラブルの解決を目的とした機関ではないため、給料未払いに対する効果は間接的なものといえます。

    未払い給料の請求手続きには、法務知識や交渉ノウハウが必要なため、労働トラブルに精通した弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
    証拠収集に関するアドバイスを得ることができれば、どの方法を選ぶにしても問題解決につながる可能性が高まります。

    また、賃金請求権の消滅時効期間の確認や、消滅時効期間の更新・完成猶予といった時効の完成を阻むための手続きを行ってもらうことができます。

    【まとめ】給料の支払いは会社の義務!時効を迎えるまでは、退職後でも未払い給料をさかのぼって請求できます

    今回の記事のまとめは次のとおりです。

    • 使用者は、「通貨払いの原則」「直接払いの原則」「全額払いの原則」「毎月1回以上定期払いの原則」に基づいて、労働者に賃金を支払う義務があります。
    • 未払い給料の請求には、証拠集めが重要となります。
    • 賃金請求権には2年ないし3年の消滅時効期間があるため、注意が必要です。
    • 在職中・退職後にかかわらず、賃金請求権の消滅時効を迎えるまでは、未払い給料をさかのぼって会社に請求できます。
    • 会社が倒産してしまった場合は、「未払賃金立替払制度」を利用すると良いでしょう。
    • 未払い給料問題の解決方法としては、大きく分けて「会社との直接交渉」「労働基準監督署への申告」「法的手続き」の3種類がありますが、会社への請求にあたっては法務知識や交渉ノウハウが必要なため、労働トラブルに精通した弁護士に相談・依頼することをおすすめします。

    未払い給料の請求についてお悩みの方は、公的機関や弁護士などの専門家にご相談ください。

    この記事の監修弁護士
    髙野 文幸
    弁護士 髙野 文幸

    弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。

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